今回はひきこもりについてお話しします。

ひきこもりとは、病気やケガ、重篤な精神疾患などがないにもかかわらず外出や交流を避けて自室にこもってしまう状態をいいます。
「ひきこもり」とは病名ではなく、あくまで状態を指す言葉です。また、「ひきこもり」と「ニート」が同じように使われていることがありますが、ニートは経済の観点から作られた言葉であり、用途も意味も違うもの注1です。


本心では社会参加したいと思っているのにできない、人とのつながりを求めているのに人間関係の構築ができない、という状態ですが、これには個人差があります。ひきこもり状態であってもコンビニへ行く程度の外出はできる人もいます。しかし自室を出てトイレに行くことすら拒み、部屋で排泄をする人もいます。他人とは無理でも家族と普通に会話できる人もいますし、家族とはまったく会話をしないのにネット上での知人とは会話をしている人もいます。
本人の危機感や認識にも個人差があり、病気扱いしてほしくないと受診やカウンセリングを拒むケースもあります。他人の介入を嫌う事も珍しくありません。


第三者から見ていると、本人は何の不安も苦労もなくゲームや読書など趣味の活動に熱中しているように見えることもあります。その多くは昼夜逆転生活を送り、日中は寝て夜に活動します。平然と遊び暮らしているように見えるその姿をこころよく思わない身内の怒りを買うこともありますが、ほとんどのひきこもりは日々強烈な葛藤と戦っています。
このままではいけないと思う焦燥感と罪悪感、それらから逃れるための趣味への没頭。社会復帰しなければいけないと思うが、どうすればいいのか分からない。一大決心して社会に再参加したとしても年齢にふさわしくない経験の少なさから屈辱を味わったり、恥ずかしい思いをしてしまう。ひきこもっている本人はそういうことをひどく恐れています。傷つくことを恐れるあまり、身を守るためにやはり部屋にこもってしまいます。

親に対して支配的な態度をとったり暴力をふるったりするケースが多いのは、ひきこもりの多くが自己愛が強いタイプであることが関係しているようです。他人や社会と接することで屈辱を受けて自己愛が傷つくことを恐れて近寄らず、自分に攻撃してこないとわかっている親などの相手に対しては自身が感じている焦燥感やイライラをぶつける相手として利用したりします。特に親から社会に出るように促されたりすると、自己愛の危機を感じて攻撃ととらえ、激しく反撃するなどして話を終わらせようとしたり話題を変えようとします。
このように責任転嫁や感情の爆発を親に対して行うので、親の方でもなるべく刺激しないようになっていきます。そうした家庭内の状況は問題解決先延ばしの成功体験の積み重ねとなり、ますます家族に対して支配的になっていったりします。
そしてそのまま放置してしまうと、場合によってはひきこもり期間が長期化し、中・高年齢に達してしまうことも珍しくありません。


心身に問題がなさそうに見えても、ひきこもっている当人に対人恐怖、社会不安障害、回避性パーソナリティ障害などの疾患があることは考えられます。診断の結果これらの疾患が判明した場合には優先的に治療を行う必要があります。それら根本的な原因の治療から状況の改善ができる可能性は高いでしょう。
はっきりとした疾患がないような場合でも、本人はなかなか動けないと思いますので家族の方が解決に向かって動く必要がありますが、長期化したひきこもり問題を抱えた家庭の場合、家族までもがひきこもり状態になってしまうことが少なくありません。ひきこもりがいることを恥に思ったりして近所付き合いや社交をしなくなってしまうケースもあります。
まず家族の方がはやめに精神保健福祉センターなどに相談するとよいでしょう。家庭訪問形式のケースワーカーなどの支援を受けることもできます。


ひきこもりを急激な環境の変化にさらして荒療治というようなお話も聞きますが、そのような手法は恐怖して悩んでいるひきこもり本人には難易度が高すぎて、別の問題を引き起こしてしまうかもしれません。いきなり就職や一人暮らしを目指すというよりは、小さなゴールを目指して少しずつ前進していくほうが良いでしょう。まずは、家族とのあいさつから、次は、家の郵便受けをチェックする係をできるように。などです。
甲斐カウンセリングルームでは、ひきこもりで悩む家族の方とのカウンセリングからはじめ、状況を見ながらひきこもり当人とのカウンセリングも行っています。まず家族の方がカウンセリングを受けることにより、家庭内の行動や役割に変化が起こります。手詰まり感を抱えていて、状況改善の手立てがないとお考えなら一度ご相談ください。



注1. ニートの定義は「学業、雇用、もしくは就業のためのトレーニングに従事していない16歳から18歳の若者」