今回は、アダルトチルドレンについてお話しします。
アダルトチルドレンとは、幼少期に適切な養育を受けられなかったり、虐待やネグレクトなどの過酷な育児環境だったりした人が、成人してから極端な人間関係の構築を繰り返すようになってしまったり、自己否定的な考え方から抜けられなかったりすることを言います。精神的に不安定になりがちで、精神疾患を患うこともあります。
ただし、「アダルトチルドレン」自体は疾患の呼称ではありません。DSMなどの疾患診断マニュアルにも疾患としては記載されていません注1

アダルト・チルドレン、略してACなどとも書きますが、正式名称はAdult children of Dysfunctional family。意味は「機能不全家族の中で成長した人」略してACoDとなります。元々はアルコール依存症の親元で成長した人を指していたためにAdult children of Alcoholics(ACoA)と言われていました。
その後の研究が進むにつれて、アルコール依存症だけでなく、薬物依存やギャンブル依存、児童虐待など、親や家庭環境に問題を抱える「機能不全家族の中で成長した人」も同様の精神的な問題を抱えがちだったことから、アダルトチルドレンという言葉の概念も広い範囲に適用されるようになりました。
注意べき点として、そのような機能不全家族で成長した人すべてがアダルトチルドレンになるわけではありません。

日本独自の問題として「アダルトチルドレン」が流行語のように使われた時期があり、それに関する本や情報が大量に出回ったためにアダルトチルドレンという言葉が一人歩きをしてしまいました。結果として、まるで「アダルトチルドレン」という診断名の病気があるかのような認識をされていたり、雑誌などに載っていた信憑性の低いチェックツールで自己診断した自称アダルトチルドレンが大量に発生するという事態が起こりました。また、たんに「子供時代を子供らしく過ごせなかったと思っている」人のことをアダルトチルドレンと言ったりしました。1990年代初頭の頃の出来事です。
このように日本では専門家の認識と世間一般の認識が異なる言葉なので、混乱を生じやすいこの言葉を使いたがらない専門家も多く、「PTSD」や「パーソナリティ障害」と診断されることもあります。

アダルトチルドレンの自己診断用のチェックリストをインターネットで検索すると様々な種類が存在していますが、そのほぼすべてが妥当性と信頼性に欠けています。正しく統計処理されて論文として掲載されたチェックリストもごくわずかに存在しますが、それらですら研究途上にあるものです注2。アダルトチルドレンに関してはチェックリストで自己診断するのはやめておきましょう。

アダルトチルドレンのタイプと特徴をここにすべて書いてしまうと、読んだ方が自己診断して自分はACだと思い込んでしまう可能性がありますので一部のみを抜粋して例として紹介します。

アダルトチルドレンのタイプの例

頑張り屋・世話係タイプ
自分が親の代わりになって兄妹の世話をしなければならないと考える。可能な限り家事を親の代わりに受け持つ。行き過ぎにも見える自己犠牲的な献身。自分のことは我慢して家族のために尽くす。主に見捨てられる不安から発生する。成長後も自分の気持ちを表に出すのが苦手で抑圧が強くなりがち。

ヒーロータイプ
学校の勉強やスポーツ、仕事などで良い成績をとり、良い評価を得ることが人生のすべてのようになっている。自分のためというより親の期待に応えるためであり、ある程度以上の成績を収めなかった場合の家庭内の雰囲気の悪化を非常に恐れる。親の虚栄心を満たすために自分が努力することがある時むなしくなったり、挫折や失敗をしてしまったときに非常に精神がもろい状態になりやすい。成長後は家庭生活の能力が乏しくなりがち。

アダルトチルドレンの特徴の例

見捨てられ不安:良い子、真面目でいないと他人に嫌われるのではないかと思ってしまう。
試し行動:自分のことが本当に好きかどうかなどをテスト(仮病や嘘の痛みを訴える・わざと失敗して見せるなど)によってしばしば確認する。
パワーゲーム:上下、優劣を何にでも付けたがる。アダルトチルドレンの場合、常に上下の「下」、優劣の「劣」の方に自分がいると考える。
勝手な読心術:自分が相手を不快にさせている、自分は嫌われている、と事実とは関係なく強く思い込む。

※上記のタイプや特徴に合致していたとしてもアダルトチルドレンであるという事にはなりません。


アダルトチルドレンの原因
はそのほとんどが親に起因するものです。虐待や過保護、過干渉。アルコールやギャンブル依存による家庭崩壊。いわゆる毒親や放置ネグレクトなど。親が機能不全に陥ったそもそものストレス要因が子供の性質や体質(泣きやすい、理解が遅い、注意集中が苦手など)であったとしても、アダルトチルドレンの原因が親であることに変わりはありません。
しかし、原因は親であったという事を理解し特定するだけではなく、親への愛憎から離れて本当の意味での親離れ・心理的な決別をすることでその先へ進むことができ、結果的に改善につながります。そのための自助グループへの参加や、心理カウンセリングなどがあります。いずれも改善するまでは継続的な積み重ねが必要になります。

アダルトチルドレンのケアの中でも、特にカウンセリングは重要です。他人との関わり方が問題になりやすいアダルトチルドレンのカウンセリングは困難も多く、途中離脱してしまう事例も多いですが、それでも他者とコミュニケーションをとる中で自己肯定感を育てることが大切です。これは薬物療法ではなかなかできないことです。
カウンセリングでは今現在に直面している問題との向き合い方をまず話し合い、現状が改善することを目標にします。それから、過去の家庭環境のことと向き合いながらカウンセラーと話し合い、過去の家庭環境についての認識や考え方を変化させていくことを目指していきます。
甲斐カウンセリングルームでも、アダルトチルドレンのことで悩んでいる方へカウンセリングを行っています。不安や心配に悩んでいる方もご連絡ください。お待ちしております。

 


注1. DSM-5 アメリカ精神医学会出版「精神障害の診断と統計マニュアル 第五版」には疾患として扱われておらず、記載がない。
注2. 笹野友寿 塚原貴子 1998「大学生の精神保健に関する研究 : 機能不全家族とアダルト・チルドレン Mental Health of College Students : Dysfunctional Families and Adult Children」など