今回はアルコール依存症・アルコール使用障害※についてお話しします。
アルコール依存症は、最も一般的な薬物依存症です。依存症は病気です。意志の強さ弱さとは関係ありません。
症状として、自分の意志で飲酒をコントロールできない・アルコールに対する強い渇望感の持続・飲酒量の増大・断酒時の離脱症状。などがあります。
「自分はいつでもお酒をやめられるからアルコール依存症ではない」「手がふるえたりしていないから大丈夫」というような自己判断はたいへん危険です。アルコール依存症かどうかの判断基準は明確に決まっています。
WHO(世界保健機関)の診断基準を元に作られたチェックリストを以下に引用します。
過去1年以内に6項目のうち3項目以上があてはまる場合、アルコール依存症の疑いがあります。医療機関を受診してください。
|
アルコール依存症は、性別・職業・学歴・性格に関係なく、誰でも依存症になる可能性がある病気です。これまで男性に多いと思われがちでしたが、近年は女性の依存患者も増えています。身体の大きさの差で、女性の方が男性より早くアルコール依存に陥りやすいともいわれています。
お酒に強いから、飲んでもあまり酔わないから平気、などという事もありません。誰でも飲酒の機会が多ければ、依存症になるリスクも大きくなります。
アルコール依存症になると家族との関係悪化や、仕事の継続が困難になることによる経済難、それら生活環境の悪化の他にも、幻覚・妄想・認知症・運動失調などの症状が現れる可能性が高くなります。さらにはうつ病や不安障害を発症することもあります。
本人がなかなかアルコール依存状態であることを認めないケースが多いのも特徴で、自発的に治療をうけたがらないために症状が進んでしまうことがあります。どの場合も周囲の手助けが必要ですが、家族だけでのサポートは非常に困難です。
家族にアルコール依存の疑いがある場合は、市役所などの総合窓口、専門医療機関や保健所、精神保健福祉センターへの相談を強くお勧めします。
アルコール依存症の治療方法は断酒以外にありません。そのための薬物療法もあり、現在はひと昔前の「お酒を飲むと具合が悪くなる薬」だけではなく、飲酒欲求そのものを少なくする薬などもあります。また、自助グループ活動の断酒会なども行われています。いずれにせよ長期にわたって継続的な努力が必要で、心身両面のサポートが必要になります。
カウンセリングによる心理療法ではブリーフ・インターベンションなどが用いられます。
いままで「お酒も適量なら百薬の長」などと言われてきましたが、2017年に英国オックスフォード大学とロンドン大学の共同研究によって、少量のアルコール摂取でも脳に重大なダメージを与え、認知症のリスクが上がるという研究注3が発表されました。まだ議論があり検証中ではあるようですが、今後の推移を注視する必要があるように思います。
甲斐カウンセリングルームでは、良くないと思いつつストレスを発散するためにお酒を飲んでしまう人や、自分の飲酒に不安を感じている方へのカウンセリングも行っています。飲酒で悪循環に陥ってるような気がしている方もご相談ください。
※ DSM-5注1から「アルコール依存症」という病名を改訂し、「アルコール関連障害群・アルコール使用障害」になりました。日本国内での診断における公式呼称はICD-10注2で定められた「アルコール依存症」がまだ使用されています。(2018年11月時点)
注1. アメリカ精神医学会出版「精神障害の診断と統計マニュアル 第五版」
注2. 世界保健機関(WHO)作成「疾病及び関連保健問題の国際統計分類 第十版」
注3. Topiwala A et al, Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study. BMJ 2017; 357 (Published 06 June 2017)