今回は私の持病でもある群発頭痛についてお話しします。

謎の頭痛
私は30代前半から謎の頭痛に悩まされていました。とにかく痛くて痛くて仕事中であっても座っていられないのです。それまで知っていた頭痛なんて、くすぐり程度に思うほどの激痛。頭痛と言っても厳密には右目の裏側、眼窩の奥の上とでもいうのでしょうか、そのあたりが激しく痛むのです。ウニや栗のようなトゲがある何かが目の裏でぐるんぐるん回転しながら頭の中を切り付けているような痛み。ときどき鉄ヤスリでゴリゴリ削られているような痛みもあります。そして必ず右の鼻が詰まり、痛みとは無関係に片方の目から涙が流れます。

あるとき、それまでで最悪の痛みに襲われました。当時働いていた会社の会議室で、激痛のあまり床を転げまわりました。比喩ではなく本当にウーなどとうめきながら転げまわったので、心配した同僚に頭のCT検査を勧められ、大きな総合病院で検査を受けてみました。結果、「問題なし」とのこと。頭ではなく目かもしれない、と思い眼科にも行きました。原因不明、見たところ何ともなさそう、そんな診察結果ばかりです。耳鼻科にも行ってみました。心療内科にも行ってみました。どこに行ってもなんという病気なのか、なぜ痛むのかさっぱりわかりません。藁にもすがる思いで、頭痛に効くというマッサージを受けたり、箱根の山奥にある眼病に効くという温泉で目をすすいだりしました。これらもまったく効きませんでした。

この頭痛には不思議な特性がありました。毎日昼と夜に2回か3回、それぞれ2時間ほど激しく痛み、それ以外の時間は全く痛くないのです。それが2か月ほど毎日続いたかと思うと、半年くらいの間すっかり治ったかのように静まるのです。完全に忘れたころに再度襲ってきます。そしてまた2か月間毎日苦しむのです。まさに頭痛発作です。

どのお医者さんに聞いてもわからないまま時が流れ、この頭痛のことを経験的に学んでいきました。頭痛の発作期間にアルコールを飲むと、即座に猛烈な痛みに襲われるので完全に断酒しなければならない。同じように発作期間は湯船に少し長めに入るだけで頭痛がスタートするので温泉もダメ。同様にスポーツや体を激しく動かして熱くなると発作スタートするのでダメ。もう何かの天罰を受けているとしか思えません。発作期間中に何か楽しいことをやろうとすると、頭痛発作がおきて床を転げまわるハメになるのです。

やっとわかった病名
数年かけて10数件病院を探し回り、やっとのことで見つけました。はじめてちゃんと病名を診断してくれたのは脳神経外科のお医者さんでした。
病名は「群発頭痛」。聞いたことがない病気。治りますか?先生。「よくわかっていないのです」…。

病名をネットで調べてみると、怖い話だらけです。痛みのあまり銃で自殺を試みたというアメリカ人の話。あぁ、少し理解できる。あまりに痛くて吹き飛ばしてしまいたくなる気持ち。銃が無い国でよかった、などと思いながらネットで情報を探し続けました。患者らしき人たちの、市販の鼻炎の薬が聞くという噂話。ある種のサプリが効くという噂。それらの噂を信じて試してみたけれども全然だったという報告。発症して仕事が続けられなくなったという話。説明しても理解されず「頭痛程度で休むな」と言われるという辛い話。どれもこれも共感できる話です。
この病気に悩まされている人は、みんな似た体験をしているようです。そして皆、ものすごく苦しんでいます。

病名がわかったことで対処療法もある程度わかってきました。発作が始まったら鎮痛剤を飲んでも効かないので、近くの病院で酸素吸入を30分ほど受ける。あるいは点鼻薬か自己注射で即効性の薬を打つ。この薬は処方箋が必要な劇薬で少しお高いですが、あるのとないのでは大違いです。発作期間の2か月間は毎日1~3回これらの対処を行います。
今も私は頭痛の発作期間にはペインクリニックで酸素吸入を受けたり、夜中に痛みで飛び起きては点鼻薬を吸ったりしています。今のところ治療法は無いらしいので、群発頭痛と一生付き合う覚悟でいます。いつか医学が進歩して完治することを願っています。

同じように苦しんでいる人たちのこと
そして、同じような奇病難病の類に悩まされている人になら理解されると思うのですが、同じ痛みに苦しむ人の力になりたいと強く思います。ファンタジー映画「ハリー・ポッター」シリーズの主演俳優ダニエル・ラドクリフ氏が群発頭痛に苦しんでいたと聞いた時も、インターネット上の掲示板に「群発頭痛で仕事が手につかない、もう退職しようか悩んでいる」と書いていた見知らぬどこかの誰かの嘆きを読んだ時も、どちらも変わりなく瞬間的に古くからの友人、歴戦の戦友のような気持ちになりました。その痛みを私も知っているよと。

もし群発頭痛や、他にも職場や家族など周囲の人に理解されにくい、説明も難しいような病気でつらい思いをしている方がいたら、ぜひお話を聞かせてください。病気や痛みを取り除くことはできませんが、ひとりぼっちで苦しむことはなくなります。そしてその「痛いというつらさを誰かと共有できること」は非常に大きなことなのです。